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▼今週の注目記事  納税3819号1面より

施行から4年
上手に使いたい配偶者居住権

 総務省の登記統計によると、2023年度の配偶者居住権の登記件数は911件で、前年より微増した。相続税の申告件数は例年15万件前後で推移していることから、制度の利用者は1千人に6人程度とごくわずかだ。同制度は連れ合いに先立たれた配偶者の住まいを確保するだけでなく、使いようによっては二次相続での税金を大きく減らせるなどメリットが大きい。相続対策の選択肢のひとつとして、あらためて概要と注意点などを押さえておきたい。

小規模宅地の特例と併用可

 被相続人の配偶者が自宅の所有権を相続しなくても家に住み続けられる「配偶者居住権」の制度が施行されてから4月で4年となった。同制度の導入前は、遺産分割協議で配偶者が自宅を相続すると、それだけで法定相続分を満たしてしまい、預貯金などの遺産を相続できなくなり不安定な生活を余儀なくされるほか、子どもらの相続分を現金で渡すため自宅を売却しなければならない事態に陥るなどの問題が起きていた。そこで2020年に導入されたのが配偶者居住権だ。家の権利を所有権と居住権に切り離し、配偶者が居住権を得ることで、所有権を相続しなくても無償で自宅に住み続けられる。

 例えば、遺産が1億円の自宅と1億円の現預金で、その相続人が配偶者と長男の2人であったとする。制度創設前なら、配偶者が自宅(1億円)を相続すれば長男は現預金の全て(1億円)を相続することになる。だが配偶者居住権の制度を利用した場合、仮に居住権の財産評価額が5000万円だとすれば、配偶者がこれを相続し、長男は所有権(5000万円)を相続する。そして現預金は5000万円ずつ分けることができる。

 配偶者居住権の評価は、原則として配偶者の年齢に応じた平均余命と建物の耐用年数などをベースに算出される。当然、配偶者の年齢が高いほど居住権の評価は下がり、その分だけ所有権の評価が上がることになる。ここで計算された居住権の評価額を本来の自宅の評価額から差し引いたものが「配偶者居住権を設定した自宅の所有権評価額」となり、先ほどの例なら長男が相続した所有権に対する相続税評価額となる。配偶者が相続した居住権の評価額(5000万円)にも相続税は課税されるが、配偶者は1億6000万円まで非課税で相続できるため、相続税額を大幅に抑えられる可能性が高い。

 配偶者居住権は配偶者の死亡により消滅するため、これを長男が相続しても相続税が課税されることはない。つまり長男は1億円の家を5000万円の評価とした相続税だけで手にすることになる。これが配偶者居住権の節税効果だといえる。

 配偶者死亡時の二次相続により、自宅の所有者となった長男は、持ち家があるかどうかで節税の事情が変わるので注意したい。自宅の相続では、土地の評価額が80%減額される「小規模宅地等の特例」がある。この特例は土地に対するものであり、「住む権利」である配偶者居住権に適用することはできないが、配偶者居住権が設定された土地の「敷地利用権」と「敷地所有権」に適用することは可能だ。ただし、特例には同居要件があるため、一次相続で配偶者と長男が別居していれば配偶者の「敷地利用権」にのみ特例が適用されることになる。そのため一次相続では配偶者居住権を適用して長男に所有権を移すのではなく、母親が不動産を単独で相続して1億6000万円まで非課税の配偶者優遇税制を使うほうが節税効果は大きくなる・・・(この先は紙面で…)

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